持久力トレーニング

2009 年 6 月 26 日 · Filed in ◎お役立ち情報, スポーツ医科学

運動生理学-トレーニング-

AT(無酸素性作業閾値)の原理とトレーニングへの応用

<基本原理>

運動強度が低い場合、私たちは一般に有酸素的代謝過程 (酸素を利用してエネルギーを供給)による運動のためのエネルギー産生が中心となります。しかし、運動強度が増加していくと無酸素的代謝過程(酸素の関与なしでエネルギーを供給)が徐々に亢進し、ある運動強度の範囲を超えると急激に無酸素的代謝過程が増加します。このような急激に変化する地点の運動強度 (速度、ワット、酸素摂取量など) のことを無酸素性作業閾値 (AT) と呼びます。(図1)

このようにATが出現する地点は、無酸素的代謝産物である乳酸の生産が、乳酸の除去を上回るために、血液中の乳酸濃度の急激な増加がみられます。このように血中乳酸濃度の変化からATを算出する場合は乳酸性作業閾値(LT)と呼びます。また、乳酸蓄積にともない体内のpHが低下(体が酸性化) し、炭酸ガスを過剰に排出することで、換気量が亢進します。このように主に換気量などの呼吸機能の変化からATを算出する場合は換気性作業閾値(VT)と呼びます。
このATは最大酸素摂取量と同様に持久的能力の指標となります。したがって、有酸素性能力のトレーニング効果を評価する上で利用されています。

<トレーニングへの応用>

ATの指標は、前述した持久的能力の指標になる一方、個々人の適切な運動強度を設定する上で、従来の心拍数、あるいは酸素摂取量などを基準とした設定方法よりも有効な指標といわれています。
図Bは、AT(LT)レベルの異なる2選手の走速度と血中乳酸濃度との関係を示しています。陸上の長距離種目の練習の一つにペース走があるが、仮にA (□)、B (■) 両選手が毎分250mでペース走をする場合、A選手にとってはこのペースはLTレベルであり疲労があまりともなわずに長時間継続できるのに対して、B選手にとってはLTレベルを超えているために無酸素的代謝過程が亢進し、長時間の運動継続が困難となります。
また、毎分200mでペース走をするとB選手にとってはLTレベルに相当するものの、A選手にとっては運動強度が低すぎて適切な運動刺激となりません。同様のことはインターバルトレーニングの際の運動強度の設定にも当てはまり、従来の心拍数を基準にしたトレーニング、あるいは全員が均一の速度でトレーニングするのではなく、個々人の能力に応じてATレベルの+10-30%の運動強度を設定してトレーニングを実施するようになってきています。
現在、陸上競技、水泳競技などでは積極的にATを利用したトレーニングを実施しているが、サッカー、バスケットボール、ハンドボール、ホッケーなどの球技系の選手にとってもトレーニングの運動強度を設定する上で有効と考えられます。したがって、今後、選手のATを測定し、トレーニングに利用していくことを強く希望します。

平成15年度フィットネスチェック事業報告書より
徳島大学 応用生理学研究室 三浦 哉